北米で展開する男子プロバスケットボールリーグ NBA(National Basketball Association、ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)所属で米国ウィスコンシン州ミルウォーキーを本拠置とするプロバスケットボールチーム、ミルウォーキー・バックスのプレジデントであるピーター・フェイジン氏は「世界で最も優れているスポーツとエンターテインメントの複合施設を建設する」という使命を抱えていました。
新大型テレビやバーチャルリアリティヘッドセット、ホームシアターが一般的となり、観客は外出しなくても試合やコンサートを充分に楽しむことができるため、いまやライバルは別の会場ではなく自宅のソファーとなりました。バックスの新しいスタジアムの開発に取り組んでいたフェイジン氏は、リアルタイムで映像を録画し、オンデマンド配信できるインスタントリプレイや食事の注文やトイレに並ぶ最短の列を探すことができるアプリなど、あらゆる最新のデジタルエクスペリエンスがファンの心を掴むカギとなると考えていました。
新しいバックスのホームとなったファイサーブ・フォーラムには、こうしたデジタルニーズに耐えうる安定した高速インターネット環境、安全で快適な空間、そして効率的な運営を支えるビルシステムとビジネスアプリケーションといったインフラの整備が不可欠でした。そして、全てのシステムを統合し、「最高クラスの」イベント会場を実現することは容易ではなかったため、その計画の設計、実行、管理を経験豊富なジョンソンコントロールズに一任することとしました。
包括的アプローチの実践:ジョンソンコントロールズがテクノロジー請負業者としての役割を果たす
ジョンソンコントロールズは、テクノロジーシステム、ビジネスアプリケーション、インフラの計画、設計、施工、統合、試運転、サービス管理を統括する代表企業としてプロジェクトの比較的早い段階で任命されました。バックスのオーナーがこうした「包括的アプローチ」を効果的と考えたのは、以下の理由からです。
テクノロジー請負業者を一社に特定したことで、全ての請負業者が明確な指示や調整の下で作業を行うことができたため、重複作業や変更指示が減り、最短期間で効率的に試運転実施に至ることができました。
結果として施設のオープンまでにテクノロジーシステムや安定したネットワークインフラが構築され、更に今後周辺施設の建築が進んだ際の技術的なニーズの変化や拡張にも対応できるシステムが実現しました。
「顧客の立場として、ワンストップでサービスが提供されるというのは大きなメリットでした」
ミルウォーキー・バックス プレジデント ピーター・フェイジン 氏
未来に向けて:これからに対応できるネットワークを構築
続スポーツエンタメ施設の建物としての寿命は長く、今後もあらゆる変化が起こることが想定されます。1988 年にバックスの会場が建設された時は米国の家庭のパソコン所有率はわずか15%でした1。携帯電話は長さ約30センチで重さは1.5キロもあり、電話をかける機能しかありませんでした2。
新しいファイサーブ・フォーラムは今後起こり得るテクノロジーの進化にも柔軟に対応できるよう設計されています。
スタジアムの枠を超えて:常につながる体験と高速で柔軟な座席構成を実現する手すりアンテナ
ファイサーブ・フォーラムはミルウォーキー・バックスのホームスタジアムとして建設されましたが、コンサートやその他のイベントにも使用されるため、その度に座席のレイアウト変更を行わなければなりません。(同スタジアムでは、毎年180近くのイベントが行われます)そこで、バックスのプレジデントであるピーター・フェイジン氏はジョンソンコントロールズに会場の手すりにアンテナを組み込めないかと相談しました。どこでもつながるWi-Fi環境を実現し、観客の視界を遮ることなく席のレイアウト変更にも最大限柔軟に対応するためです。
手すりアンテナは、頭上や座席に設置されるアンテナでは実現できない、強固で高速、信頼性の高いネットワーク接続を実現する上で有効な方法として近年注目されています。ファイサーブ・フォーラムのネットワークインフラの設計にも不可欠であり、会場内には76台の手すりアンテナが設置されています。この実装に伴いジョンソンコントロールズとそのエコシステムパートナーのアバクセント社とアクセルテックス社によって、最もレイアウト変更の多い1 階席に28本の手すりアンテナを設置、米国障がい者法(ADA)に準拠しながらも観客の視界を妨げない、フレキシブルなレイアウト変更に対応できる革新的なソリューションが生まれました。
このソリューションには、小型アンテナが取り付けられている手すりを分解・組立する「ダーツコネクター」方式が採用されています。ネジ式の接続部をなくしたことで、作業員は2回クリックするだけで手すりを素早く取り外し、客席を収容することができます。イベントに応じて必要なレイアウトに変更し、次の試合のために素早く元に戻すことができます。このアンテナと組立方式の導入にあたり、ジョンソンコントロールズのプロジェクトチームはアンテナのリード線を手すりまで伸ばし、会場の地中部分にあるアクセスポイントまで電波を届かせるという方法を新たに開発しました。
こうしてイベントの種類や座席のレイアウトに関わらず、観客は途切れることのないWi-Fi 接続環境、オンデマンドでのライブデータストリーミング、そしてエキサイティングなライブ体験が可能になったのです。
見て、聴いて、感じる―観客の視覚と聴覚を最大限に満たす映像制作ソリューション
会場内の観客が試合を観戦したり写真を投稿する際、施設内の映像制作スタジオから映像や音響が届き、観客の体験はより豊かなものになります。この映像制作スタジオはジョンソンコントロールズが設計・施工した音響機器や映像設備とブロードキャストケーブルによって実現しました。
建物内の至る所に設置されているカメラが映像制作スタジオに映像を送り、更にその映像は主要なブロードキャストネットワークに配信されたり、会場の中心に吊り下げられたNBA最大級のセンターハング式フルHDスコアボードに表示されます5。スコアボードやリボン状大型映像装置(リボンボード)、その周りを取り囲むスピーカーは統合された大規模なネットワークにつながり、シームレスなコンテンツ管理と配信を実現します。
また、スポーツ・エンターテインメント鑑賞の映像・デジタルコンテンツ配信ソリューションであるCisco Visionがファイサーブ・フォーラムの運営担当者による会場内全体の高精細IPTV(840台以上)に表示される情報の配色、コンテンツ、ブランディングをカスタマイズ可能にしました。ライブ映像、試合の分析結果、プロモーション、広告、エンターテインメント、コミュニケーションを配信し、ファンの体験をさらに広げ、イベントスポンサーの収益機会を創出します。
「我々はNBAのイノベーターとなり、パイオニアでありたいと考えています。ですから、起業家精神を持ち、プロジェクトに伴うチャレンジを恐れないパートナーを探していたのです」
ミルウォーキー・バックス プレジデント ピーター・フェイジン 氏
安全・安心・快適なファン体験を効率的に創造する
安全性の確保
ファイサーブ・フォーラム内の人、ネットワークインフラ、テクノロジーシステムをあらゆるリスクから守るため、多くのサイバーセキュリティ対策が講じられており、イベント会場への入退室もシステムによって細かく管理されています。会場には施設に足を踏み入れるすべての人の安全性を確保する420以上のドアが設置されており、監視システムと入退室システムで制御されています。選手エリア、倉庫、医療施設、公共エリアなどそれぞれの場所によって異なるセキュリティ制限がかかっており、例えば、NBAの選手やミルウォーキー・バックスのスタッフのメンバーが入室可能なエリアは生体認証の虹彩認証と指紋認識システムによって制御されています。
会場内では、オペレーションセンターから警備担当者がスタジアムに設置された365台以上の高解像度IP監視カメラや、観客座席エリア、選手のベンチエリアを映す高解像度20メガピクセルカメラで選手、パフォーマー、来場者の様子を監視し、安全性を確保しています。
また、運営担当者は重要なアラーム通知や試合当日のシステムに関する詳細な情報を即座に把握し、最適かつ安全なファン体験を確実に実現します。会場全体を通して、火災警報器は会場のオーディオビジュアルシステムと統合されているため、緊急時には火災警報からリボンボードに信号が送られ、緊急メッセージを表示し、事前に録音された避難メッセージがスピーカーから大音量で再生されます。
また、緊急対応要員との連携を確実に行うため、オペレーションセンターでは、緊急時に安定した接続を確保できるDAS公安周波数を採用、階段室、エレベーター、地下室、厚い壁や遮蔽物のあるエリアなど、電波が届きにくい場所でも安定した通信機器の接続を確保します。
快適性と持続可能性の実現
ジョンソンコントロールズのHVAC 機器とテクノロジーは、空調の最適運転を実現することで会場内のファン、選手、パフォーマーに快適な室内環境を提供します。
例えば、3台の磁気軸受ターボ冷凍機であるYORK® YMC2チラーは、温度を調整しながらエネルギー消費量の削減と効率化を実現します。会場の観客席エリアに設置されたエアハンドリングユニットの高効率電子整流モーター(ECM)ファンは、消費電力と二酸化炭素排出量を削減しながらも家庭用の空調機400台分にあたる給気量の空気を送り出すことができ、更に装置の駆動音がイベントの音響を妨げないよう、静音性を確保しています。
Metasys® ビルオートメーションシステムは、機器やシステムのパフォーマンスを制御・監視し、イベントの実際の参加者数など、変化に応じてリアルタイムで調整を行うことができます。予測分析機能が備えらえているため、Metasysはイベント中に発生しうる問題を予め特定することもできます。また、水の力を利用して対象の装置を冷やす水冷式型のYCWLチラーは、家族向けアイススケートショーやナショナルホッケーリーグのエキシビションゲームを開催する上で、会場内のアイスリンクの氷を製氷するために使用されています。
「建物」の役割を超えて:コミュニティの成長を促進するために
エンタープライズ・ファシリティマネジメントソリューションは、会場、商業施設、バックスのトレーニング施設、駐車場をシームレスに統合し、ファン体験や建物のパフォーマンスの向上、エネルギー使用量の削減、エンターテインメント地区における環境への負荷削減を実現します。
ファイサーブ・フォーラムはスマートビルとして、バックスが主導する「会場周辺の約121,406平方メートルにおよぶ空き地を活性化する」という野心的な目標を達成する上で要となります。すでに新しい駐車場とチーム用のトレーニング施設の建設が完了しており、ジョンソンコントロールズが会場に構築したものと同じネットワークインフラが採用されています。
これはほんの始まりに過ぎません。ミルウォーキーのダウンタウンエリアで過去最大となる開発プロジェクトでは、エンターテインメントや住宅、小売、商業施設が集結し、ファイサーブ・フォーラム周辺は数年の間に複合エンターテインメント地域となりました。現在の会場で活用されているテクノロジーの基盤を活かし、更なるビジネスやパートナー企業がコミュニティの一部になることを可能にしました。
「私たちのグループは、スポーツエンタメ施設における最高基準となる会場を建設すると同時に、地域全体の更なる発展とコミュニティの成長を促進することに尽力しています」とフェイジン氏は述べています。「ジョンソンコントロールズ社のパートナーシップとサポートがなければ、その目標を達成することはできませんでした。我々は共に素晴らしいエンターテインメント施設を建設しただけでなく、私たちの町の輝かしい未来を実現したのです」
1 https://www.pcworld.com/article/142550/article.html
2 https://www.pcworld.com/article/131450/in_pictures_a_history_of_cell_phones.html#slide1
3 http://www.ibtimes.com/heres-crazy-amount-cellular-data-snapchat-consumeshow-stop-it-1938313
4 https://corporate.comcast.com/comcast-voices/you-can-do-a-lot-with-1-terabyteof-data
5 http://fox6now.com/2018/01/16/9-4m-leds-new-daktronics-scoreboard-hoistedinto-place-in-new-bucks-arena/